昭和27年05月22日 衆議院 法務委員会
[007]
説明員(最高裁判所事務総局刑事局長) 岸盛一
ただいま大阪、広島両地方裁判所長から、広島と堺市において起きましたこのたびの事件について、詳細御説明がありましたが、私から、やはり最近における同種類の事件の2つ、3つを御説明いたしたいと思います。
(略)
もう1つ4月の14日に、静岡の地方裁判所で勾留理由の開示期日に起きた事件を説明いたします。
その当日、午前10時30分開廷に際して、警備員が6、7名廷吏が2名法廷に入っておりました。まず裁判官が入廷して、傍聴人、被疑者の順で入廷の順序をとったところ、傍聴人は、傍聴券所持者の間に券を持っていない者を巧みにはさみ込んで、大勢の人の勢を利用して、入口から押込みの方法で入った。
法廷のうち側で傍聴券整理の任にあたる警備員が、これを制止いたしましたが、すでに入廷した全傍聴人が、総立ちとなって警備員を罵倒して、その制止を妨害する挙に出で、その制止を押し切って強引に数名が不正に入廷しましたので、警備員をさらに増加配置いたしましたが、入廷の傍聴人は完全なかたまりとなって、4、5名の指導者に統率され、法廷外から腕力を振って押し込んで来る、傍聴券を持っていない者を阻止している警備員の背後に立ちまわってえり首をつかまえ、また不正侵入者を引入れる等の挙に出で、傍聴席にもぐり込んでしまい、警備員が不正入廷者の退廷を求めますと、傍聴人は口々に、公開の法廷だ、何が傍聴券だ、だれが来てもよい、などとどなり散らし、警備員の措置を罵倒妨害し、またいち早くその隣の者が、袖の下から自己の傍聴券を、券を持っていない者に渡し、不正入廷者は傍聴券があればいいだろう、とこれを提示をするといったぐあいで、傍聴人の入廷に約1時間近い時間を要し、混乱を生じたのであります。
裁判官はその際再々にわたって不正に入廷する者の退廷を命じましたが、そのような状況のもとでは、傍聴券を所持する者と所持しない者との判別が困難となり、その命令執行は不能の状況でありました。
最後になりまして、定員60名以上が入廷している場合は閉廷し、全員退廷させる、その上にあらためて傍聴券所持者の入廷を許すという命令を出した。その人員を調査しましたところ、約15名の不正入廷者があったのであります。その調査に際しても、いろいろそれを妨害する行為があったそうであります。
そこで全員退廷の命令を出しましたが、傍聴人は口々に先ほど申しましたような暴言を吐き、かたまりになって退廷に応じない気勢を示し、法廷内は騒然となりましたので、裁判官は廷吏、刑務官12名、それから警備員15人と、この多数の傍聴者、つまり朝鮮人の傍聴者ですが、この75名との力の均衡を考えて、実力行使に出た場合には一層の混乱に陥ることを考慮して、そのまま開廷いたしました。
勾留理由の開示及び被疑者、請求者の意見陳述は比較的平穏に行われましたが、被疑者、請求者の意見陳述は各10分間の制限に、再三の制止にかかわらず従わなかったので、やむなく意見中途の0時15分に閉廷を宣し、被疑者傍聴人の退廷を命じましたところ、被疑者、請求者、傍聴人は一丸となって口々に続行を求め、総立ちとなって閉廷が不当であると怒号罵倒して、数名の傍聴人は木柵を乗り越えて被疑者の席になだれ込み、被疑者の退廷を執行しようとする刑務官を突き倒し、刑務官を床の上に転倒させる等の行為に出て、傍聴人が被疑者を取囲んで混乱に立ち至ったので裁判官は待機警官40名、警備員30名を訟廷課長指揮のもとに入廷させて被疑者を救い出し、傍聴人の強制退廷をさせる等の処置をとりましたが、法廷の構造等の関係から警察官、警備員の活動は行動の自由を十分発揮されずに裁判官席、被疑者席になだれ込み、傍聴人とこれを阻止せんとする警察官及び警備員が正面から対立して、この退廷命令の執行に際し警備員の森下雇ほか数名は傍聴人によって殴打され、またはけられ、あるいは突き飛ばされ、倒され、また洋服をつかまれて引ずられる等の暴行を受け、警備警察官が警棒1本を奪われたほか、腕時計を壊される者や腕に傷を受けた者等も出たということであります。この混乱は口や筆には尽すことができないということであります。
この混乱は約15分くらいで済みまして、漸次法廷は静かになり、最初の命令通りようやく傍聴人を退廷させて閉廷することができたということであります。かような次第でありまして…。
[008]
委員長代理(自由党) 田嶋好文
岸さんに御注意しますが、説明はなるべく簡単に……。
[009]
説明員(最高裁判所事務総局刑事局長) 岸盛一
これで終ります。
かような事例は――たまたま本日ここで説明申し上げましたのはごく一部でありまして、最近平和条約の発効前後にかけてかような法廷内における暴力ざたまでに発展する事例は、全国の裁判所の随所に行われております。
もともとものものしき警戒のもと裁判をするということは、およそ民主的な裁判にふさわしきものではありません。しかしながら、事情はただいま申し上げた通りでありまして、このような状態でありますならば、今後の裁判所の警備あるいは法廷秩序についてとくと再検討いたさなければならないことが痛感されるのであります。またかような法廷闘争のために裁判所の機能は阻害され、能率が著しく低下しておるということも考えなければならない、さように考える次第であります。