昭和24年08月24日 衆議院 地方行政委員会
[003]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
いま一つ最近に目立った事件は、朝鮮人同士の乱闘事件が相当ふえつつあるということであります。その最たるものは、先般下関において起りました朝鮮人の居留民団と、朝鮮人連盟の間における乱闘事件であります。最近居留民団が所々において支部を設け、その活動の強化をはかっておるのでありますが、これに対する朝連側の妨害と見るのが大体正鵠を得たものだろうと考えております。
下関の事件はやはりこの範疇に入るのでありまして、8月の15日に小野田におきまして、民団が韓国の独立記念行事といたしまして、小野田市内を行進いたした際に、朝連側の約200名ほどがこれに暴行を加えたということに端を発するのでありますが、これが20日の早暁3時ごろ、さらに下関におきまして乱闘事件になりまして、朝連側が民団側の事務所及びその幹部の家屋等、約20軒を破壊いたしまして、数人の傷害事件を起したのであります。
警察といたしましては約1000名ほどの警察官を動員いたしまして、この乱闘事件の被疑者の逮捕にあたりますとともに、治安の確保に万全を期しておるのであります。これがこのまま終熄いたしますか、さらに派生的に事件を拡大するような事故が起りますか、ただいまわれわれの方は厳重に監視中であります。ただいまのところでは、さらに派生的の事件の起るような様子が見えないのであります。民団側にいたしましても、朝連側にいたしましても、不法者に対しては断固警察は検挙をいたすべく決意を固めておる次第であります。
[009]
日本共産党 谷口善太郎
斎藤国警長官に1、2お尋ねしようと思うのでありますが、下関における朝鮮人同志の乱闘事件について、長官は先ほど御報告になりました。それによりますと居留民団が各所に支部を設けて活動し始めたことに対して、朝連側がこれを妨害する目的で、方々に乱闘が起ることになった、こういうふうに御報告になったのでありますが、私どもの方に入っておる情報では、まったく逆なものがあるのであります。
ここに朝鮮人連盟からの国警に対する抗議書が参っておりまして、多分あとから斎藤長官に代表が手渡しすることと思いますが、それの一部分をここで申し上げますと、長官の方では、居留民団が支部をつくろうとするそういう運動に対して、朝連側が襲撃を加えておる、こういう報告であったのに対しまして、そうではなくて、まったくその逆であることがここに書かれております。
すなわち、8月15日に下関に居住する朝鮮人の8月15日解放記念日に際して、その行事を未然に妨害するために、朝連の下関支部管内大坪分会に対して民団側暴力団が積極的に先に手出しをしておる。数10名が奇襲を敢行して、同分会の設営になる慶祝用の松の門あるいは装飾物、こういうものを破壊して、病気中の同分会班長、金三竜氏に暴行を加え、3週間にわたる打撲傷を負わしておる。それだけでなく、さらに朝連の小野田支部事務所を破壊する目的で、トラック6台に石ころ30貫、棍棒数100本を満載した約200名の居留民団側が攻撃に来ておる。それで対して騒擾を未然に防ぐために、朝連側は事務所を守っておると、これに対しまして彼らは奇襲を加えて、その事務所に襲撃を加えておる。すなわち当連盟小野田支部に参集した大衆は、同日午後3時ごろに解散しておるのであるが、その解散したことを察知した居留民団側が、山岳地帯に隠してあった6台のトラックを動員して小野田市内に侵入して一斉に挑発的な暴力行為を加えた。このときに小野田炭鉱の日本人労働者数名も、通行中の日本人市民も、この暴行団のために非常な暴行を加えられている。これに対して警察はただ傍観するのみで、何ら居留民団側の暴行行為に対して、これを取締ることをやらなかった。こういうふうな報告が出ております。
その他この抗議書は長いから申しませんが、すべて向う側からやって来ている。事実襲撃されているのは朝連側の事務所でありまして、小野田にしろその他のところにしましても、すべて襲撃されている事務所は朝連側であって、朝連側が逆に向うの支部やその他を襲撃した事実はないことになっております。これは非常に明らかなことであって、その都度下関署長に対しては抗議をし、また署長もいろいろ回答をしておられますが、こういう非常に明らかなことであるにもかかわらず、国警の方では逆に居留民団の各所につくる支部に対して、あるいはそういう組織運動に対して、朝連側が襲撃を加えて暴行をする。これを妨害するというところにこの事件の本質がある。こういう報告であったのであります。
こういう点は非常に食い違いがありまして、はたしてどちらが正しいのか、これはもちろん調査しなければわかりませんが、しかし今長官の御報告によりましては、ただ支部をつくる居留民団に対して、朝連側が襲撃を加えた。ところが朝連の抗議書によりますと、朝連の事務所が何月何日何時、どれだけの人間によって襲撃を加えられているかということがはっきりしておる。
私どもが判断しますと、事務所の襲撃を受けたのは朝連側であるというこの事実は、国警長官の報告がまったくうそであるか、あるいは間違った報告に基いてなされておるか、そのいずれかと断ぜざるを得ないのであります。この点国警の方では具体的な、どういう報告が来ておりますか。ひとつ聞かしていただきたいと思います。
[010]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
私が先ほど述べましたのは、全国の大体の傾向を述べたのであります。そしてまた下関事件もそういった傾向の一つの中に入るものだと申し上げたのであります。
ただ下関事件におきまして、民団側にも不法行為があります。朝連側にも不法行為があります。さようでありまするから、両方とも不法行為は断固取締ると述べたのであります。
ただ下関事件の最も大きな不法行為は、朝連側が加えたということを私は報告を受けておるのであります。事件の詳細は取調べが済みますれば明らかになるだろうと思います。それまでお待ちを願いたいと思います。
[011]
日本共産党 谷口善太郎
下関事件で朝連側が最も大きな不法行為をやったという、その具体的なことをここでお話し願えませんか。今一番問題になっていると思われますのは、小野田警察署を占拠したというような問題があるのであります。
しかしこれは先ほど申し上げました炭鉱労働者に傷をつけた居留民団側が、約150名ばかり警察に入って、そうしてこの暴行を受けた朝連側が、これに対して警察へ抗議もしくは保護を申し出て行った代表がいるのでありますが、それに対して警察の中で、この警察に行っていた150名の者が非常な暴行を加えた。結局混乱が起きまして、むしろ警察占拠という形になったようでありますが、これに対しまして翌16日の午後1時ごろ、朝連側代表が署長と交渉した際に、なぜ署長の面前で暴行を加えた居留民団側に対してこれを取締らなかったかという朝連側の代表の抗議に対して、現行犯でも暴行は相手方の告訴がなければ検挙できないのだというようなことを署長は言っております。
この8月16日の小野田警察署占拠という問題は、明らかに朝連側の代表だけが行っており、その前に居留民団側が150名も警察に行って、警察の中でこの代表に暴行を加えて、警察はそれをただ傍観しておったという内容にあるようであります。こういう点についても私どもは非常に不審をもちますので、その根本的に大きな事件を起したという点を、具体的にお漏らし願いたいと思います。
[012]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
まず大きな事件と申しまするのは、20日の午後3時から5時ごろまでの間に、朝連側の約300人の人たちが、民団側の事務所及び民団委員の家屋約20戸を破壊いたしまして、そうして数名に傷害を与えたという事件であります。
[013]
日本共産党 谷口善太郎
それは幾日でありますか。
[014]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
8月20日の午後3時であります。
[015]
日本共産党 谷口善太郎
その件につきまして、ここではこういう報告が出ておると思います。8月15日以来の警察側の無責任にして奇怪なる態度は、ついに民団側の破壊的暴力行為を助長する結果として作用し、去る8月20日の破壊的集団暴力行為となった。
すなわち20日午前0時、民団側暴力団約20数名は、白鉢まきに日本刀、手裏剣、手製手榴弾等で武装、当連盟下関支部管内大坪分会方面に大挙来襲し、当連盟員数名に、背後より日本刀でめった切りにし、当連盟下関支部管内第一分会長夫英明氏に瀕死の傷を負わせ、金國(20歳)氏の右肩に手榴弾を投げつけた。さらに花田と称する20歳の青年は、警察官の面前で背中を突き刺されたが、警察官は犯人を逮捕しなかった。
同日午後2時半頃、大坪町所在の当連盟小学校に対し、数100名の警察官は包囲網を形成、折柄当校で開催中の朝鮮人教育者同盟定期大会を急襲し、事件とまったく関係なき数10名の教師を令状なしに逮捕し、一般大衆をも不当検束した。この際、当連盟宇部小学校児童金君順(15歳)は、警察官の暴行によってコン棒で頭を割られ、ほか2名の児童も同様重傷を負わされた。暴力団民団員の累進的な破壊的暴力行為に対して、何ら適切な措置をも講ぜず、最少限度の警察執行権をも行使しない日本警察が、事件とまったく関係なき当連盟員に対する非人道的暴行を敢行している。
こういうことを書いておるのでありまして、もちろんこれも私今長官からの御報告と、この朝連側の抗議の内容にある報告との間の食い違いにつきましては、十分なる調査をしなければならないと思いますが、しかしここにおきましても集団して暴行を加え襲撃しているのは警察官といい、あるいは居留民団側といい、朝連の学校その他事務所に来ているのが彼らの方でありまして、こっちから向うへ行った事件でないのであります。
こういう点につきましてやはり私どもは長官が、今おっしゃったように、デモ的な形勢、デモ的事件の本質という中の一つのものとして、下関事件におきましても朝連側が暴行の主体になっており、あるいはその挑発者になっている、そういうことには考えられないのでありますが、この点についてどうでしょうか。もう少し伺いたい。
[016]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
ただいま谷口さんより報告をしろというお話ですが、その件につきましては、私の方はまだ承知しておらないような事柄が相当多いのであります。事件はただいま懸命に捜査中でありまするから、詳細判明をいたしましたる後に、また御報告を申し上げたいと思います。
[017]
日本共産党 谷口善太郎
ほかに質問のある方もあると思いますし、簡単に申し上げますが、そういうお考えでしたら、先ほどの長官の報告によりますと、あれはだれが聞いておりましても、下関事件という事件は、居留民団の方に一つの支部組織というような運動が起っておる。これに対して朝連がそれを妨害するように反響を加え、騒擾事件が起り、暴行事件が起るというような報告をなさることは、まったく軽卒であります。あの報告を聞いたすべての人が、朝連側が非常に暴力団であり、暴力行為を積極的にやっておるという結論しか出せないような御報告であります。
こういう一方的な報告――まだ調査が十分にできていないならば、そういう一方的な判断をもって御報告をなされるということは、それこそ社会不安をかもすものであり、事件の本質の認識を誤まらせるようなものであると思うのであります。ぜひひとつ今後は、いやしくも国会の委員会で、そういう軽卒な態度で御報告をなさらないようにお願いしたいと思います。
[018]
説明員(国家地方警察本部長官) 斎藤昇
私は全国に最近の傾向として申し上げたのでありまして、また下関事件につきましても、私の今まで受けました報告におきましては、私は軽卒な報告とは思っておらぬのであります。
しかしながら、谷口委員のお話の点もありますので、事件を調査の結果、さらに御報告をすることがあるのであろうと申し上げたのであります。
昭和24年09月13日 参議院 地方行政委員会
[072]
説明員(国家地方警察本部部長(警備部長)) 樺山俊夫
下関の事件を簡単に申上げます。事件が起りましたのは8月の20日の午前2時半からでございますが、その前に7月の31日に、宇部でやはり朝連と民団の対立のために傷害の沙汰がございました。
その後8月15日に朝鮮の独立記念祭が小野田で行われまして、その際やはり双方の衝突がありまして、下関からトラックに乗りまして小野田に向っておりました民団側に対しまして、朝連の方から襲撃をいたしまして、双方とも負傷者を出したという事件が8月15日に起っております。
その後8月20日までの間に、先程申しました小野田の関係の事件が多少不穏でございまして、多少ごたごたがあったようでありますが、8月20日の午前2時半になりまして、下関に在住しております朝連員約200名が、民団の支部の建物並びにその附近にありまする民団員の住宅19戸を襲いまして、次々に破壊した。尚被害の家屋より金品を奪掠いたしまして、市内の治安が一時的に全く擾乱されたのであります。
NRPといたしましては、現地よりの応援の要請を午前の5時に受けまして、急遽下関に出動いたしましたが、下関の朝鮮人の居住者は非常に沢山ありまして、軽々に検挙に着手することもどうかという状態でございましたが、警察官の態勢ができ上りましたので、午後になりまして検挙に着手いたしました。
その後数次の検挙によりまして、9月5日現在において検挙いたしました数は、156名、そのうち63名を釈放いたしまして、77名を送致いたしております。尚未逮捕になっております者が20数名ございます。これが引続き現地におきまして捜査を継続しておるわけであります。
極めて概要でありますが、大体下関におきましては、昨年の大阪事件或いは又神戸事件の際に、学校問題をめぐりましてあれ程の問題にはならなかったのでありますが、いろいろ問題がありまして、その後引続いて御承知の徳山、小野田その他におきまして、いろいろ民団、朝連双方におきまして対立がありまして、事ごとに問題を起しておったのであります。
下関に在住しておりまする朝鮮人の数は明確でありませんが、大体1万人内外の朝鮮人が居住いたしております。而もその居住しておりまする地域が、下関の北端の極めて不便な所に集団的に居住いたしております。この部落の治安問題というのは、前から下関市におきまする治安の非常に大きな部分を占めておったのであります。
従いまして今回の問題に対処いたしまするために、大体下関市の警察には300幾らの署員がおりますが、NRPに対する応援に基きまして、一番沢山出動いたしましたときにおきましては、NRPから900名、合計1200名の警察官を下関に動員いたしまして、この検挙を容易ならしめたのであります。
尚検挙いたしました者の中には、朝連の県本部の委員長、民青の支部の総務部長でありますとか、朝連の下関の学校の校長、それから下関の支部の委員長というような幹部を検挙しておるのであります。それから検挙に際しまして押収いたしました物品の中で注目されますのは、日本刀が1振と竹槍が33本、鉄棒が2本、鉈が1本、棍棒8本、ハンマー3、庖丁7、かような品物を押収しております。
https://ja.wikipedia.org/wiki/下関事件_(騒乱)
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